特集 菜食のすすめ
食物は人を形づくる上で最も大切な力となります。すべては食物の質にかかっています。 ─ババ
現代では栄養学や健康についての情報をよく耳にしますが、食物の質がこころに与える影響について聞くことは少ないようです。ババ様は、現代の私たちのこころの中の動物的で邪悪な諸傾向は、摂取する食物に起因すると言われます。人間が動物を殺すとき、その動物に苦しみや痛みや傷を与えます。私たちは相互につながって生きていますので、他を傷付けることは何より自分自身を傷付けることになります。また肉食をすることによって、人は暴力的な傾向をつのらせ、動物的な性質を身につけてしまいます。私たちが調和的な人生を送るため、感覚をコントロールするには、まず食物をコントロールすることがとても重要なのです。
1万年程前、地球の人口は約500万人足らずで、人は木の実や果物などを食べ、天然資源も豊かで幸せに暮らしていたそうです。しかし現代では人口は50億人を超え、2050年には100億人に達すると推定されています。これだけ膨張した人口によって天然資源も急速に消費された今では、世界でたくさんの人がエネルギー不足や飢餓に苦しんでいます。
ここで、農作物の土地効率について見てみましょう。例えば、同じ広さの土地でたんぱく質を得るためには穀物を産出するほうが肉に比べて5倍ものたんぱく質を得ることができると言われています。豆類は10倍、野菜は15倍、ほうれん草は26倍ものたんぱく質を産出すると言われています。
この世界の混乱と平安の欠如はすべて、私たち自身の食習慣にその原因を帰しているとも言えるのです
─ババ
現代では西欧化が進み、食卓にも日本の文化が失われつつありますが、日本はもともと農耕民族で穀物を主食としてきました。日本人のように米を主食とする民族は、主食からたんぱく質をとるとも言われています。そして先進国の人々がみな菜食をすると、飢えている人すべてに1人当たり4トンの穀物を供給できるという想定もなされています。
300年前まで、多くの日本人は玄米菜食で1日2食でした。しかし、元禄中期に贅沢の風潮が広まり、腹持ちのよい玄米を精米して、口当たりのよい白米を食べるようになり、今の3食にだんだん変化してきました。
■ 非暴力の教え
食の文化は、民族の文化が発展するうえで、根底をなすものの一つに挙げられます。仏教はインドから中国へ伝えられましたが、布教する際にもっとも重視されていたのは菜食の実践でした。それは『五つの戒め』の中で一番たいせつなものとして挙げられる『不殺生戒』すなわち、「仏教を信ずるものは殺生してはならぬ」という教えを徹底させるためでした。
そのため日本では七世紀天武天皇、聖武天皇の時代に肉食を禁止する法律が出され、明治期まで続きました。
菜食はこの様に、すべてのものを傷つけることのないようにという「非暴力」の教えによってもたらされたのです。
この尊き教えに習った寺院料理は、旧仏教以来わが国の食事文化の発展に顕著な役割を果たしてきました。
■ 精進料理のこころ
日本の大切な文化であり、優れた健康食である精進料理をぜひ日常の食卓に取り入れたいものですが、この精進料理の『精進』とは、善行を重ねて悪を絶ち、心身を清めて行いを慎み、物事に精魂込めてひたすら努力するという意味があります。
一般に精進料理は旬の野菜、穀類、海草類だけで調理したものとされていますが、しかしこれは単に肉や魚や卵を避ければよいというものではありません。食物すべてが生命あるものであり、その生命が私たちの生命の源となっていることを心に留め、やさしく丁寧に、思いやりをもって自然の恵みに感謝する、真心を込めた料理のことなのです。ですから、調理されたものをただ買ってきて何の気なしに食べても、そこから私たちに必要なエネルギーを摂取することは困難なのです。
昔は食事をするときは、一度神棚に捧げてから戻しておたまで取っていました。そのおたまの『たま』とは魂のたまからきているという説があります。食事を賜り、たまを割って分け御霊として授かる、という日本の美しい伝統からもみられるように食事をする前に一度捧げてからいただくという習慣をぜひ日常にしたいものです。
■ 世界のベジタリアン
多くの医者がたんぱく質を強調し、肉や卵などを勧めます。しかしこれらのものに含まれるたんぱく質は、単に身体の形成に役立つのみで、心には害をもたらすのです
─ババ
菜食では栄養不足で病気になったり、肉を食べないと力が出ないのではないかと一般的に思われがちですが、オリンピック水泳で4つの金メダルを取ったマレーローズ、マラソンのアベベ、テニスのナブラチロワ、陸上競技のモーゼスといった世界的に有名な多くのスポーツ選手が、人間が本来もっている能力を最大限に生かすために菜食主義を実践しています。
紀元前六世紀のギリシャに生まれ、三平方の定理を発見したことで有名なピタゴラスは、魂は不滅であり、肉体が消滅した魂は他の肉体の中に移住しなければならなくなるので、肉食をすると動物の意識が私たちの身体を通過するという輪廻転生説を説きました。そして、約300人の学生とともに毎日瞑想と良心の自己点検、そして肉食の禁止という厳しい規律の中で科学の研究をしました。
プラトンも、肉食が始まったことによって戦争が起こったことを説き、ピタゴラスの菜食主義を理想国家のモデルとして推奨しました。
またレオナルド ダ ヴィンチは動物の肉、魚や卵のみならず、チーズやミルク、蜂蜜などの動物性食品を一切食べない厳格なベジタリアンでした。もちろん乳製品や蜂蜜は生命を傷つけずにいただける恵みなので、スワミのおっしゃる非菜食の食物ではありませんが、自然や芸術を愛するが故にすべてのものの中に生命を見たのかもしれません。
その他、ガンジー、タゴール、ルソー、日本の文学界「白樺派」に影響を与えたトルストイなど、多くの菜食者が世界で偉業を成し遂げています。
菜食に関するQ&A Q.食事をコントロールすることが困難に感じるのですが…
A.ババ様は私たちがすぐにすべての欲望や執着を放棄することを期待してはおられません。そうすることはあまりに急激なステップであるということをご存じだからです。ですからババ様は私たちが『節制』と呼ばれるプログラムを使うことを勧めておられます。このプログラムによって、欲望を少しずつ削っていき、そうすることによってババ様が「必要以上の荷物」と呼んでおられるものを手放していくのです。
サイラムニューズ 1995年9・10月号
Q.家族の理解がないので、御教えと毎日の生活との差に悩んでいます…
A.ババ様は私たちが人生の大部分を共に過ごす人こそ、私たちが学ぶ必要のあることを教えてくれることのできる人であると言われます。私たちはこの事実を認め学習の余地を設けさえすれば良いのです。ですから私たちと密接なつながりをもっている人々は、私たちにとって最大の教師となり得るのです。もし、彼らの助力によって、家族関係のなかで、私たちが忍耐・寛容・不動心・自制心を身につけることができれば、人生は私たちがもっとも必要としている霊的教育を提供する点から言えば、修行僧や隠遁者の人生と同じくらい有益なものになります。
サイラムニューズ 1995年9・10月号
Q.では私たちはどのような食物をとれば良いでしょうか?
A.食物には清らかさ(浄性)、激性(激情)、鈍性(不活発さ)に結びつく3つの属性があり、食物の属性によって私たちの性質が決まっていくと言われています。
・ 激性─酸っぱかったり、塩辛かったり、刺激が強く辛かったりするもの、飲酒、喫煙、肉食(魚、卵を含む)
・ 鈍性─冷たく新鮮でない、臭いの強いもの
・ 浄性─塩や胡椒などの味付けが強すぎない野菜、果物、ミルクなど清らかさをもたらすもの。
ババ様はこの中でも、浄性の食物をお薦めになられています(以上『プラサード』より)。
・ できるだけ生の物か、わずかしか火を通していない食物、精白していない穀類(胚芽米、麦、玄米等)、大豆
・ 野菜や果物・木の実・乳製品など(以上『節制』より)
食物はもっとも調和された環境で生きていますので、店先へと移動し、日が経つにごとに生命力が低下してしまいます。そして加熱したり調理することにより更に生命エネルギーが失われてしまうのです。しかしこれまでの習慣を急速に変えることは逆に様々なストレスを生み混乱を招くことがあります。そこでこれらの食物を食事の中に少しずつ取りいれていくことをお勧めいたします。
また、水については、食事中ではなく、前か後に飲むようにとスワミはおすすめになられています。
胃は4つの部分からできています。4分の1が空気、4分の1が食物、2分の1が水です。最近はみな食べ過ぎています。水が入る場所がありません。
─ババ
Q.サラダや果物、豆類など同じものばかりを食べ続けて体調を崩してしまいました
A.急激な変化は身体に負担をかけてしまうことがあります。身体を気遣わないことによって「肉体は無視されることを拒否します。それは、あなたを霊的な仕事から脇道に逸れさせようとします」また、「『常に中庸を保ち、決して度を超さぬように』と仏陀は説きました。実際、中庸は幸福への王道なのです」ともおっしゃられています。(以上『プラサード』より)
Q.どうしても好きで身体や精神に良くないと思いながらやめられない食物があるのですが…
A.自分がその品物をババ様に手渡している姿を想像し、同時にあなたから取ってくださいとお願いし、これを規則的に繰り返すという方法があります(『節制』より)。
ババ様は目や耳や鼻や口など感覚器官を通して摂取されるものすべてが食物であるとおっしゃっています。食事中にはできればテレビやビデオを見ないようにしましょう。食事をしている間は静寂を保つべきであり、音波でさえも心に影響を与えますので、食事中に一切の悪い感情をもたないことがとても大切です (『プラサード』より)。
程よく食べ、中庸をもって話し、欲望や追い求めるものを少なくし、誠実に働いて得た僅かなものに満足すること、また人々に誠意をもって奉仕し、すべての人に喜びを分け与えること。これらは、健康の科学として知られる太古の『アユール ヴェーダ』に記されているすべての健康増進の道のなかで最も強力なものなのです。 ─ババ (東京センター食事セヴァ担当)
あなたの至福が、私の食事なのです
─ババ
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